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スウェーデンレポート - スウェーデンで見た「福祉国家」の実態〔2011年6月13日公開〕

菅内閣の掲げる「強い経済、強い財政、強い社会保障」政策のアイデアの出所が、スウェーデン中心の「北欧モデル」にあることは有名です。菅直人首相は就任後の会見(2010/6/8)で、「スウェーデンなどの多くの国では、社会保障を充実させることの中に、雇用を生み出し、そして、若い人たちも安心して勉強や研究に励むことができる。まさに社会保障の多くの分野は、経済を成長させる分野でもある、こういう観点に立てば、この3つの経済成長と財政と、そして社会保障を一体として、強くしていくという道は必ず開ける」と言明しました。

スウェーデンの実像

民主党政権は、スウェーデンの高福祉・高負担政策があたかも日本の理想であるかのように述べていますが、これは検証が必要です。そこで、私は、スウェーデンの「高福祉・高負担」の実態を探るために、2010年の夏、現地視察を行いました。首都ストックホルムなど複数の市を回り、また現地の税制に詳しい会計士、経営者、市議などから話を伺い、「夢の国」の驚くべき姿を知ることができましたので、以下、紹介します。

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スウェーデン・データ

  • 国 名 スウェーデン王国
  • 人 口 約934万人  cf.神奈川県 約903万人
  • 総面積 約45万平方㎞(日本の約1.2倍)
  • 首 都 ストックホルム
  • 宗 教 福音ルーテル教会(プロテスタントの一派、人口の8割所属)
  • 公用語 スウェーデン語
  • 通 貨 スウェーデン・クローナ  *ユーロに加盟していない
  • 国家形態 立憲君主制、議会民主制
  • 元 首 カール16世グスタフ国王
  • 政 府 中道右派の穏健党を中心とする連立政権
  • 首 相 フレーデリック・ラインフェルト(穏健党党首)
  • 議 会 一院制(349議席、任期4年)
  • その他 国連加盟(1946年)、EU加盟(1995年)、失業率8.3%(2009年)、
    名目GDP:4786億ドル(2008年) cf.神奈川2799億ドル(2007年)、一人当たりGDP:世界8位(2008年)

「強い経済」から、福祉国家へ

人口規模約934万人のスウェーデンという国家は、経済が非常に強いことが特徴です。世界経済フォーラムの競争力ランク(2010年版)では、日本が6位なのに対して、スウェーデンは2位です。また、スイスにあるビジネススクールの国際経営開発協会(IMD)の発表によると、2010年度の国際競争力番付で日本は27位(昨年17位)、一方、スウェーデンは6位(昨年も同)となっています。

このようにスウェーデンの競争力が高く評価される要因としては、情報通信などのインフラの整備が進んでいることや法人税率が低いこと(日本の実効税率約40%、スウェーデン約26%)などが挙げられます。またスウェーデンでは、企業間の競争はかなり厳しく、弱体企業が淘汰されることも頻繁であるといいます。スウェーデン政府は、リーマンショック・世界金融危機で業績が悪化した自国の自動車メーカーのサーブを救済せず、同社は経営破綻をしましたが、これは日本では考えられないことではないでしょうか。

スウェーデンは、なぜ「強い経済」を実現できたのでしょうか。
第二次大戦を中立国として生き延びたスウェーデンは、戦後の復興に向けた、各国からの様々な需要に沸きました。そして経済成長を推し進め、1960年には、スウェーデンの国民一人当たりのGDPは世界3位にまで達しました。「高福祉・高負担」というスウェーデンモデル形成の、いわば分水嶺の年にあたるのがこの1960年でした。この年、当時のエランデル首相(社会民主党)が増税路線のアクセルを踏み、4.2%の消費税を導入したのです。

その後も、スウェーデンの成長は続きます。消費税導入から10年後の70年では、一人当たりGDPは、アメリカにつぐ世界2位に達しました。そして段階的に増税を行い、30年後の1990年には、消費税は現行の25%となったのです。勿論、スウェーデンの経済がこの間全て順調に推移してきたわけではありません。石油ショックやバブル崩壊等にも直面しました。しかし、スウェーデンはこうした難局を克服しながら、福祉国家として確立してきたのです。

手厚い社会保障

「福祉国家」の代名詞でもある国だけあって、スウェーデンにおける福祉の充実ぶりは驚くばかりでした。
出産費用はタダです。育児休業制度は大変充実しており、子どもが8歳になるまで、両親合わせて最長480日間、手当が支給されます(最初の390日間は給与の80%保証、残りの期間は定額支給)。医療費も20歳未満は無料であり、それ以上も年間の自己負担は上限900クローナ(日本円で約1万円。なお本稿では、1クローナを12円として換算)しかかかりません。
そして、子ども手当(児童手当)として、16歳未満の子供を持つ親には、子供一人当たり月額1,050クローナ(12,600円)が支給されます。また、子供の数に応じて多子割増手当として、第二子には150クローナ、第三子には454クローナ、第四子には1,010クローナ、第五子以降(1人につき)には1,250クローナが支給されます(2010年7月以降の額。多子割増手当は16歳以上20歳未満の学生も支給対象)。学費は、小学校から大学院まで原則無料であり、このように子育てには、ほとんど費用がかからないのです。

また、スウェーデンの公的年金制度は、1999年に改革が行われています。大きな特徴は、所得比例年金と保証年金を組み合わせた制度とされたことです。所得比例年金とは、所得に応じた保険料の負担であり、保険料率は上限18.5%と定められています(賦課方式16%、積立方式2・5%。この新制度は、みなし確定拠出方式と言われる)。保証年金は、低・無年金者に対するものであり、全額国庫負担です。

支給開始年齢は、所得比例年金については、61歳以降、開始年齢を選ぶことができ、保証年金は65歳からとなっています。年金が給付されるまで、国民には年一回、オレンジ色の封筒が送られ、年金受給の予測額が通知されます。
スウェーデンは手厚い社会保障制度が整備されているため、国民は「お上頼み」の傾向が強く、貯蓄をあまりしない国民性だと聞きました。しかし、年金の予測受取額が徐々に減っていることが見て取れるため、国も国民に対し自己防衛を図るよう言いはじめているようです。

年金を納めていなかった65歳以上の人に対しては、保証年金が支給されます。1938年以降の生まれで結婚していない者には、月額7,526クローナ(約90,000円)、夫婦の場合、一人当たり6,713クローナ(約80,000円)を支給。1937年以前に生まれ、結婚していない者には、月額7,708クローナ、夫婦の場合には、一人当たり6,867クローナが支給されます。年金の支給を受けるには、スウェーデンに3年居住していることが必要であり、満額支給には40年居住が条件とされています。これは移民の増加を受けて決められた措置とのことでした。

さらに、いわば最後のセイフティネットとして、「高齢者生活援助」という給付があります。これはスウェーデンにおける居住期間が、保証年金の条件を満たさない移民などに支給されています。その水準は、結婚していない場合、月額4,786クローナ(約57,000円)、結婚している場合、一人当たり月額4,044クローナ(約48,000円)とされており、収入から税や住居費を差し引いた金額が、同給付の水準を下回った場合、その差額が支給される仕組みです。

スウェーデンの日本人会会長を以前につとめられ、現地で電子機器の製造・販売を手がける、ある日本人経営者に社会福祉制度の概要を伺ったのですが、この高齢者生活援助の算定金額は、「贅沢することまでは認めないが、旅行など一定の娯楽の必要経費まで組んで算出されている」とのことでした。

また、ストックホルムで会計士として活躍する別の日本人の方からは、「スウェーデンでは、生活苦で死は選びません。つまり自殺しないのです」とお聞きしました。イギリスの福祉政策の標語であり、福祉国家を指す言葉に、「ゆりかごから墓場まで」がありますが、スウェーデンでは、まさにゆりかごから墓場まで、国家が生活のすべての面倒をみる福祉社会が実現されているのです。

スウェーデンの政治

スウェーデンは経済成長を続け、危機を乗り越えながら、数十年をかけて増税を進め、福祉を維持・強化してきました。この間、公教育の現場でも、子供は公共財であることや福祉の大切さ、そして連帯心、奉仕の精神などを徹底的に教えたようです。
また、男女平等については、既に幼稚園で体験的に教える土壌があります。玩具の使い方をみても、男の子は男子児童向け玩具で遊び、女の子は女児児童向けを使うというジェンダー的な区別が生じないような指導がなされているといいます。

こうした思想教育は、長期にわたって政権を担ってきた社会民主党の影響だということですが、高福祉・高負担、そして平等社会といったスウェーデン社会が、時間をかけて構築されていったことが分かります。とはいえ、増税には国民の忌避感が強いものです。それが、なぜスウェーデンでは可能だったのでしょうか。この理由としては、政治に対する国民の信頼感があったようです。

スウェーデンは日本と同じく議会制民主主義の国であり、1971年には、一院制に移行し、国会議員の定数削減や意思決定の迅速化が図られています。選挙は4年に一度行われ、その投票率はなんと80%以上に上ります。現在は、2010年9月の総選挙の結果、前回選挙から引き続いて中道右派の穏健党を中心とする連立政権が国政を担っています。しかし、左派の社会民主党が長らく政権の座にあり、福祉社会の構築や経済成長等を実現してきたのです。

スウェーデンの政治をリードしてきた社会民主党は、1889年に結党されました。1932年から76年まで40年以上に及ぶ長期政権を維持し、何度かの政権交代を経た現在も比較第一党です。スウェーデンは、政治の透明性や政治家のモラルが非常に高いことでも知られます。情報公開が徹底され、政治活動のすべての領収書が公開されます。そして、オンブズマン(スウェーデン発祥)が、政治や行政に対するチェック機能を果たしています。

前出の会計士は言い切りました。「スウェーデンでは、日本におけるヤミ献金などの不祥事は考えられません。政治家はステイタスを上げる努力をしており、国民からリスペクトされています」。また、スウェーデンでは社会民主党政権のもと、経済成長のための労働力を確保すべく、女性の就労が奨励されました。家庭の中にいた女性も働くようになり、徐々に家族関係が変化していったといいます。子育ては家庭で行うものという観念が薄れ、子供は公共財であり、国家が育児を支援するという社会的合意が得られるようになったのです。そのため、スウェーデンでは、離婚や事実婚、婚外子の増加を招きました。

日本でも女性の社会進出が進んでいますが、日本の伝統的な家族観と、スウェーデンにおける家族観とは大きな開きがあります。日本人経営者は次のように力説されました。

「今、日本がスウェーデンと同じような福祉国家へと舵を切るならば、日本は破滅するでしょう。日本とスウェーデンとでは、教育や経済成長などの社会的な基盤があまりにも違いすぎるのです。日本は独自の価値観でやっていったほうがよいと思います」

さらに、「残念ながら、日本の政治家は目先の選挙対策ばかりで、将来のことを考えていません。一方、スウェーデンでは、政治家は常に未来を語っています」ということでした。スウェーデンの政治家や政府は、「25年先の将来を見越して制度設計をしている」というのです。政策の実施に当たっては、福祉水準を維持できるように、国家として生産性向上を図るために、①男女平等を推し進め、女性の就業促進により納税者を増やす ②移民政策 ③67歳定年制の導入を図り高齢者を労働力に、といった様々な措置を講じているのです。

また、社会民主党は立党時から、労働時間の短縮や男女同権、王制の廃止などを主張しており、実現した政策をマニフェストから外していくそうです。場当たり的な日本の政治とは全く違うのです。なお、スウェーデンにおける右派の勢力は、社会民主党が長期政権にあった時代は、自由主義的な立場から社会民主党の政策に異を唱えていたといいます。しかし、現政権の中道右派は路線を変えて、政策的に左派に歩み寄り、社会保障は削減しないという福祉重視の立場を鮮明にしています。そして、子ども手当の多子割増手当の増額や年金受給者への減税等の政策をうち出しています。政権交代しても、国家の指針が大きく変更されることはないのであり、「福祉国家」としてのスウェーデンは、完全に確立していると言えるでしょう。

我が国では、現在、民主党政権がスウェーデンをモデルに、増税・高福祉に向かおうとしています。しかし、スウェーデンにおける福祉国家への歩みは、着実な経済成長を成し遂げた政治に対する信頼と、政策に関する国民の合意のもとで進められてきたのです。経済不振、政治不信の真っただ中にある日本とは、事情が異なることがお分かり頂けると思います。

国民にのしかかる「重税」

さて、先に述べた福祉水準を維持するためには、大変なコストが必要となります。
そのため、原資として必要な税率は極めて高く設定され、高福祉の対価として、国民には重税がのしかかっています。
国税である消費税(付加価値税)の標準税率は25%です(医療・介護等は0%、書籍や新聞等は6%、食料等は12%)。地方税(地方所得税)の平均税率は31.52%です(自治体によって異なり、現在、28.89%〜最高34.17%)。地方税は自治体の財政力に応じており、私が訪れたストックホルムやソルナなどの潤っている自治体では低めに設定されています。
なお、スウェーデンは地方分権が徹底しているため、国と地方の関係は役割分担が明確です。国は年金と社会保険を、ランスティング(都道府県)は医療などを担い、国民生活に最も密接なコミューン(市町村)が、保育、教育や福祉などを担当しており、二重行政は無いと言われています。

所得税として、年収372,100クローナ(約446.5万円)以上は、地方税に加えて国税がかかり、532,700クローナ(約640万円)までは20%、それを超えると25%の国税がかかります(2010年)。スウェーデンの租税負担率(国民所得のうち、税金が占める割合)は47.7%と、50%にせまる、まさに大重税国家なのです。

スウェーデン国民の所得は決して多くはありません。前出の会計士に伺ったところ、たとえば電話交換手の平均給与は、月額19,500クローナ(約23万円)、所得税30%を引いた手取りは約13,650クローナ(約16万円)です。ここから消費税や年金などを納めることを考えますと、スウェーデンは社会保障は整備されているものの、裕福な生活を送れる社会ではないことが明らかです。(なお、スウェーデンには富裕層を生み出すために、起業を奨励する文化があります。)

国民負担率(国民所得における税金や社会保険料の割合)をみると、日本が40.6%(2008年度)なのに対して、スウェーデンは64.8%(2007年)と大変な負担であることが分かります。高福祉を確保するためには、これだけのコストが必要なのです。また、スウェーデンは公務員数の比率が非常に高く、労働力人口に公務員が占める割合は、約3割です。まさに、「高福祉・高負担」の「大きな政府」、それがスウェーデンなのです。

行政のコスト意識

さて、これだけの税金を徴収する行政サイドとして、その使い方に如何なる意識を持っているのでしょうか。そこで、ストックホルム県のソルナ市を訪ね、市会議員として生活保護や移民問題を担当される、パール・グランファルキ氏にヒアリングを行いました。

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人口約67,000人のソルナ市では、現在、「ソルナモデル」と呼ばれる、全スウェーデンが注目する社会福祉モデルが実行されているといいます。世界金融危機の影響で、スウェーデンでは失業率の悪化が懸念されています。こうした中にあって、市民を「社会保障への依存」から「職業的な自立」へと導くのがソルナモデルの狙いなのです。ソルナ市では、一律の形式的な手続きのみで、様々な手当を支給するようなことはありません。市民の自立支援を図るため、行政として、市民とのコミュニケーション重視や、ローカルカンパニーとの連携、市民の再教育・職業訓練の実施などのさまざまな措置を講じているのです。

以下、パール市議の発言をいくつか紹介します。

「役所は200を超える会社とタイアップしており、数多くの求人依頼が寄せられています。失業率の低下につながるよう、求人依頼に対しては、最適なあっせん・マッチングをきめ細かく行っています。私たちは誇りある社会福祉システムを実行しているのです」

「たとえば、住民から生活保護申請があった場合には、二人組の役人で相手先に赴いて生活状況などをリサーチします。詐欺・不正受給ではないかもしっかりと調査します。その後、生活保護を給付するか否かの結論を出すのです。支給した後も、福祉の垂れ流しにならないよう、再就職先をあっせんします」

「税金の無駄は許されません。税金は必要なところにまわすべきで、必要な人にこそ使われるべきなのです」

こうした取り組みにより、ソルナ市では他の自治体よりも失業率が低く抑えられているということでした(2009年の失業率:スウェーデン全土8.3%、ストックホルム6.6%、ソルナ市5.4%)。税金の使途における無駄削減の効果もしっかり出ているそうで、日本の行政担当者にも大いに参考にしていただきたいところです。また、ソルナ市では、若い人がストリートにたむろしていないのも印象的でした。これは行政が住民とコミュニケーションを図っていることなどが、その理由としてあげられるようです。

スウェーデンの悩み――移民問題

さて、高い税負担さえ覚悟すれば、一見、理想的な国家にも思えるスウェーデンですが、同国も問題を抱えています。その深刻な問題のひとつが「移民問題」です。

スウェーデンでは、全人口の約14%の約134万人が外国生まれの移民です(2009年末)。スウェーデンにおける移民の受け入れは、第2次大戦後から拡大し、70年代のはじめまで、北欧や南欧からの移民を労働力として大量に受け入れました。その後、労働移民の制限をしましたが、移民が家族の呼び寄せを行いましたし、人道的立場から、中東、ラテンアメリカ、アフリカなどからの難民を受け入れました。

スウェーデンに対しての難民申請数は、ヨーロッパの中で最も多く、難民受け入れの拒絶率に関しては最も低くなっています。
難民受け入れに極めて寛大な国であることが明らかです。人道主義の国スウェーデンでは、移民政策も整備されています。スウェーデン語の無料講座や、移民子弟にはスウェーデン語と合わせて母国語教育なども行われています(近年、紛争国からの難民流入により、移民政策の財政的な負担が重くなっているとの指摘あり)。また、移民であっても、居住期間など条件を満たせば、社会保障などでスウェーデン国民並みの権利も認められ、移民受け入れの積極的・先進的な取り組みがなされてきたと言えます。

オランダなどと同様に地方参政権も認められていますので、移民系住民の発言権は強いようです。「社会的弱者には保護をあたえるべき」ことを幼いころから徹底的に教育されてきたスウェーデンでは、このように移民受け入れに積極的でした。しかし、これが仇になって、大きな問題が生じているのです。

移民を受け入れ、増加を招いた結果、犯罪の多発や暴動の発生など治安が悪化したのです。移民の失業率の高さも問題です(2009年の移民の失業率【15‐74歳】:15.1%。移民若年層の失業率【15-24歳】:35.2%)。移民増加を受けて、ネイティブのスウェーデン人が住めないエリアが、ストックホルム市内でもかなり増えてきたと聞きました。

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そのうちの一つであるリンケビーというエリアを視察してきましたが、出会うのは、大半がムスリムでした。犯罪防止のため、アパートの1階部分はどこも鉄格子で覆われていました。駅前に設置された掲示板のガラスは割られ、その破片が路上に散乱しています。小学校の校庭では、放火された跡も目にしました。

昨年、私は外国人参政権の研究のために、オランダを視察しました。オランダでも、移民系住民の増加により治安が悪化した地区があり、スローテル・ミーエというエリアでは、日本人学校が頑丈な柵で覆われ、食料品店が鉄格子で「武装」されていたことに衝撃を受けました。ですが、今回訪問したリンケビーは、スローテル・ミーエ以上に悲惨な状況であると感じました。以前のスウェーデンは、治安が非常に良かったと聞きます。しかし、先述の経営者の話では、「スウェーデンに移民が増加してからは、それまでは存在しなかったマフィアが十数年前に結成された」ということでした。

寛大な国スウェーデンは移民の受け入れとともに、大きな苦悩も招いているのです。2010年秋のスウェーデン総選挙で、「反移民」を掲げ、イスラム系移民排斥を訴える民主党が初めて議席を得ましたが、これはスウェーデンにおいて、移民が大きな社会問題となっていることのあらわれと言えるでしょう。
私は日本の持続的発展のために、「移民は受け入れるべき」と考えています。しかし、絶対に国内治安の悪化を招かないよう、その際は、外国人犯罪の撲滅に向けた対策を実施すべきとの立場です。このスウェーデンの事例からも、移民受け入れに当たっては、外国人犯罪の抑止策が必要であることが窺えるのです。

徹底監視社会スウェーデン

スウェーデンで凄まじいのは税金の「取り立て」の方法です。これには本当に驚かされました。納税は国民の義務とは言え、前出の会計士曰く「ここまでやるか!」というほどの徹底した取り組みです。

まず、スウェーデンには、1947年に施行された「国民総背番号制」があります。
子供の出生に伴い、病院から番号を管轄する国税庁(税務署)に情報が行きます。その後、住民登録と合わせて、国税庁から親に10桁の個人番号が伝えられます。以後、「生活のすべて」が税務署に把握されるのです。税務をはじめ行政手続はもちろん、銀行での口座開設・取引など、個人番号が必要です。そして、この個人番号の情報を企業は購入して、様々なマーケティングに活用していると聞きました。

税金の滞納があった場合は、国税庁の関係機関である「徴収庁」が回収に乗り出し、財産の差し押さえも行います。
また、税務署の預かり知らない範囲で、前年よりも銀行口座の残高が増えたら、それだけで脱税とみなされます。まさに、はじめに疑いありき、「推定有罪」の世界なのです。税務署から「お尋ね」の手紙が送られ、増加分には所得税と追徴金が課されることとなります。異議がある場合は、証拠書類をそろえて提出しなければなりません。

また、他人の課税所得であっても、希望による公開制のため、近所の住人が分不相応にみえる暮らしをしていると、税務署に通報されるという「密告」も頻繁だと聞きました。互いが互いのプライバシーを監視しあう社会が出来上がっているのです。
また、雇用主は、社会保険の負担として、払った賃金に対して31.42%の「雇用主税」を収めねばなりません(65歳以上と26歳未満には軽減税率適用)。これには、従業員を少なく報告することで、税金を逃れようとする経営者も出てきます。そのため、不正防止を図るべく、飲食店と理髪店のオーナーに対しては「従業員日誌」という制度が近年導入されたということでした。税務署から雇用主側にノートが渡され、すべての従業員の出社日から出社・退社時間に至るまで、勤務状況をつぶさに記入することが義務付けられているのです。

そして、現場には、二人組の税務署員が見回りに来て、日誌と勤務実態とをチェックするというのです。記入漏れがあった場合は、20,000から30,000クローナ(24万〜36万円)の罰金が発生します。また2010年の6月からは、全ての店舗のレジに、自動売上記録システムが装備された「ブラック・ボックス(B・B)」機械制度が施行されました。それ以前のレジはすべて廃品・ゴミ箱行きで、すべてのレジを新しくする必要が生じたのです。

新制度導入以降は、客のフリをした税務署員が抜き打ちで店を訪れ、B・B機レジを導入していない店だと判明したら、20,000クローナ(24万円)の罰金が科されます。またB・B機レジを通さずに物を売る現場を発見され、不正が発覚した場合は、即、100,000クローナ(120万円)の罰金、となるのです。商業活動のすべてが税務署に監視され、把握されているのです。これが福祉国家スウェーデンのもう一つの姿なのです。

手厚い社会保障を支えているのは、国民が負う重税と、その徹底的な徴収方法にあるのです。
ただし、スウェーデン国民の納税意識が極めて高いことは述べておきたいと思います。福祉のただ乗り、脱税が問題となっているのは、主に移民系住民です。現地で取材したところでは、「税金を払いたくない」との低いモラルは、東欧、中東、そしてアジアの移民の順に多くみられるといいます。移民が増加している中、福祉国家スウェーデンは、より一層「徹底監視社会」としての性格を強めていくのかもしれません。

自由の大国を目指して

「実験国家」とも呼ばれるだけあり、スウェーデンには確かに行き届いた社会保障制度をはじめ、成熟した行政と政治など目をみはるものがありました。また、さすがに世界的に有名な家具メーカーIKEAやアパレルブランドのH&Mなどを生んだ国です。デザイン性が高い国民性らしく、空港や地下鉄の駅がおしなべてスタイリッシュな造りになっていたのが印象的でした。
しかし、移民問題や日本とは大きく異なる家族関係、そして高負担や徴税の実態など、さまざまな問題があることも明らかとなりました。

視察に同行した現地ガイドが「65歳まで何とか〝耐えて〟働いて、年金をもらえれば幸せです」と話してくれたとき、「これがスウェーデンに住む人の『本音』であり、菅首相の唱える『最小不幸社会』の姿でもあろう」と感じました。健全でのびやかな自由主義の観点からは、これからの日本がスウェーデン型の「高福祉・高負担」「監視国家」へと舵を切ることが、正しいこととは思えません。

また、スウェーデンと日本とでは伝統や価値観がまったく異なるにもかかわらず、これを無視して、「国家がすべての面倒をみる」というスウェーデン型のシステムを導入するならば、日本に「家族の解体」「自助努力の精神の喪失」をもたらすことになりかねないとも感じました。スウェーデンに、日本が目指すべき国家モデルを見出すことはできなかったというのが、率直な感想です。

日本における福祉政策や社会保障制度のあり方については別途考えねばならず、私も改めて自分の考えを世に問うつもりですが、安易な増税論議や「高福祉・高負担」を目指す動きには警鐘を鳴らし続けていきたいと考えています。

【主な参考文献】

  • 『スウェーデンの政治 実験国家の合意形成型政治』(東京大学出版会 2009年)岡沢憲芙著
  • 『貧困にあえぐ国ニッポンと貧困をなくした国スウェーデン』(あけび書房 2008年)竹崎 孜著
  • 『スウェーデンはなぜ強いのか 国家と企業の戦略を探る』(PHP新書 2010年)北岡孝義著
  • 『中央公論 2009年1月号 スウェーデン型社会という解答 藤井 威』(中央公論社)
  • 『オランダ、スウェーデン両国における外国人受入に関する調査研究報告書』(社団法人 経営労働協会 2010年)
  • 『覚悟の社会保障』(グローブ42号 朝日新聞2010年6月28日)
  • 『スウェーデンモデルの核心学べ』(日本経済新聞2009年9月17日「経済教室」)湯元健治